
「肩がずっと痛いので、五十肩だと思っていました」
診察室で、このような話を聞くことがあります。
もちろん肩の痛みの多くは、五十肩や腱板炎など肩関節そのものに原因があります。
ただ、肩を診察しても痛みの原因がはっきりしない場合、首から出ている神経が原因になっていることがあります。
代表的なのが、頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症による「頸椎神経根症」です。
今回は、肩の痛みと首の神経の関係について説明します。
💡 肩が痛いのに、なぜ首が原因になるの?
首の骨である頸椎からは、肩、腕、手へ向かう神経が枝分かれして出ています。
椎間板ヘルニアや骨の変形などによって、この神経の出口が圧迫・刺激されると、首だけではなく肩甲骨周辺、肩、腕などに痛みが出ることがあります。
当院HPの首・肩の痛みについてでも、頸椎椎間板ヘルニアでは首から肩、腕にかけて痛みやしびれが生じることを説明しています。
ここが、五十肩との大きな違いです。
🔍 「肩の病気」と「首の神経痛」はどう見分ける?
患者さん自身で完全に区別するのは難しいのですが、診察ではいくつかヒントがあります。
肩関節そのものが原因の場合は、腕を上げる、後ろに回す、服を着るといった「肩を動かす動作」で痛みが出ることが多くなります。
一方、頸椎神経根症では、
・首を後ろに反らすと肩や腕まで痛む
・肩から腕に痛みが走る
・腕や指にしびれがある
・左右で感覚が違う
・腕や手に力が入りにくい
といった症状が診断の手掛かりになります。
特に「肩だけでなく腕や手まで症状が続いている」という場合には、肩だけでなく首も確認した方がよいでしょう。
MRIでヘルニアがあれば、それが原因?
ここも注意が必要です。
MRIで頸椎椎間板ヘルニアや狭窄が見つかったからといって、必ずそれが現在の痛みの原因とは限りません。
画像と実際の症状が一致しているかを見ることが重要です。
そのため診察では、痛みの場所、しびれの範囲、筋力、感覚、反射などを確認し、必要に応じてレントゲンやMRIを組み合わせて診断します。
「画像を治療する」のではなく、「患者さんの症状の原因を探す」という考え方が大切です。
🏥 まず手術が必要なのでしょうか?
頸椎神経根症と診断されたからといって、すぐに手術になるわけではありません。
2023年に発表された保存治療に関するシステマティックレビューでは、59のランダム化比較試験、4,108人を対象に、運動療法、牽引、薬物療法などさまざまな保存治療が検討されています。ただし研究間のばらつきが大きく、「この治療だけを行えばよい」と単純に結論づけられるほどエビデンスは一様ではありません。
筋力低下が進行する場合や脊髄症を疑う所見がある場合などは、脊椎外科での評価が必要になります。
一方、明らかな進行性の神経障害がない場合には、症状に応じて薬物療法やリハビリテーションなどの保存治療から始めることが一般的です。手術と個別化された理学療法を比較した2024年のシステマティックレビューでも、頸椎神経根症は通常まず保存的に管理され、保存治療で改善しない場合や重度・進行性の神経症状がある場合に手術が検討される、と整理されています。
🏃 リハビリは「首を揉むだけ」ではありません
頸椎神経根症では、痛みがあるからといって首をまったく動かさないことが必ずしもよいとは限りません。
症状を確認しながら、頸椎や肩甲帯の動き、姿勢、筋力などを評価していきます。
2024年のシステマティックレビューでは、通常の理学療法に神経モビライゼーションを加えることで、痛みについて明確な上乗せ効果は示されなかったものの、可動性については改善が認められました。つまり、リハビリにも複数のアプローチがあり、患者さんごとに組み合わせを考える必要があります。
当院では理学療法士による運動器リハビリテーションを行っています。
💉 痛みが強く、リハビリもできない場合
「痛くて夜も眠れない」
「腕が痛くて仕事にならない」
「痛すぎてリハビリどころではない」
こうしたケースでは、痛みそのものを先に軽減する必要があります。
症状や画像所見などを確認したうえで、薬物療法に加えて神経ブロックなどを検討する場合があります。
硬膜外ステロイド注射については、2025年にAmerican Academy of Neurologyのガイドライン小委員会がRCTを系統的にレビューしています。ただし頸椎だけの効果を腰椎と完全に分離して評価できない点などもあり、ブロック治療は「ヘルニアがあるから全員に行う」ものではなく、症状や神経学的所見などから適応を判断することが重要です。
当院で行っている治療については、神経ブロックについてでも説明しています。
⚠️ こんな症状は早めに受診してください
肩の痛みだけであれば緊急性がないことも多いのですが、
・手に力が入りにくくなってきた
・物を落とすことが増えた
・ボタン掛けや箸が使いにくくなった
・歩きにくい、ふらつく
・両手にしびれがある
・筋力低下が進んでいる
といった症状がある場合には、単純な肩こりや五十肩として長期間様子を見ない方がよいでしょう。
特に手先の巧緻運動障害や歩行障害がある場合は、神経根だけではなく脊髄が圧迫されている可能性も考える必要があります。
「肩を治療しているのに良くならない」なら、首も確認してみる
肩の痛みは、肩関節だけを診ればよいとは限りません。
五十肩、腱板障害、筋肉由来の痛み、そして首から来る神経痛。
症状が似ていても、原因が違えば治療方法も変わります。
特に、
「肩の治療を続けているのに改善しない」
「肩から腕まで痛い」
「しびれもある」
という方は、一度首まで含めて評価してみる価値があります。
大阪市淀川区・三国、新大阪周辺で首・肩・腕の痛みやしびれにお困りの方はご相談ください。
よくある質問
Q. 五十肩と首のヘルニアは同時に起こりますか?
あります。肩関節の病気と頸椎の病気が併存することもあるため、「どちらか一方」と決めつけず診察することが大切です。
Q. 腕まで痛くなければ、首は関係ありませんか?
腕まで症状が出ないケースもあります。肩甲骨周囲や肩の痛みが主症状になることもあるため、痛みの場所だけで判断することはできません。
Q. MRIは必ず必要ですか?
必ずではありません。まず問診と身体診察を行い、症状や神経学的所見から必要性を判断します。
Q. ブロック注射をすればヘルニア自体がなくなりますか?
ブロックはヘルニアそのものを物理的に取り除く治療ではありません。神経周囲の炎症や痛みを軽減し、日常生活やリハビリを進めやすくする目的などで適応を判断します。
この記事の要点
肩の痛みは肩関節だけでなく、頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症による神経根症が原因になることがあります。
肩から腕への痛み、しびれ、筋力低下などを伴う場合は首の評価が重要です。
MRI画像だけで診断するのではなく、症状・診察所見・画像を合わせて原因を判断します。
治療は一律ではなく、薬物療法、リハビリ、必要に応じた神経ブロック、そして手術適応の判断を組み合わせます。
参考文献
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